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東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)70号 判決 1962年2月27日

原告 アルツール・フイツシエル

被告 株式会社ワルツ

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

原告のため上告期間として三ケ月を附加する。

事実

第一、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「昭和三三年審判第五二六号事件について特許庁が昭和三五年三月七日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、請求の原因

原告代理人は、請求の原因として次のように述べた。

一、原告は実用新案登録第四六八、六八六号「閃光灯装置」の権利者であるが、昭和三三年一〇月九日被告を被請求人として、被告の実施する別紙記載の(イ)号図面およびその説明書に示す閃光灯装置が前記登録実用新案の権利範囲に属する旨の審決を求めて特許庁に審判の請求をしたところ(昭和三三年審判第五二六号事件)、特許庁は昭和三五年三月七日原告の申立は成り立たないとの審決をし、その審決書の謄本は同年三月一七日原告代理人に送達され、訴提起期間は職権により同年八月一六日まで延長された。

二、原告の右実用新案登録第四六八、六八六号の考案の要旨は、登録請求の範囲に記載されているように、「中空室1aの両側に電池その他を収容する室2と3とを有するケーシング1の上部にソケツト5を有する灯支持体4を枢軸6によつて枢着し、折畳み式反射器8を有する支持体7を上記の灯支持体に堅固に取り付けた閃光灯装置の構造」にあり、これに対し(イ)号図面および説明書に示されている閃光灯装置は、電池その他を収容する室2と3とを有するケーシング1に対し、該格納ケーシングの上部にソケツト5を有する灯支持体4を枢軸6によつて枢着し、折畳み式反射器8とこれを支持する支持体7と上記の灯支持体4とを一体となるように堅固に取りつけ、不使用時に回動させ該ケーシング1をカバー状に閉鎖するようにしたフラツシユガン」である。

三、審決は両者を比較した後、両者は、その目的および作用効果の一部において共通するところがあるが、図面および登録請求の範囲に示された具体的構造において著しく相違しており、その結果作用効果においても著しく相違する点が認められるとし、(イ)号図面および説明書に示す閃光灯装置は本件登録実用新案の権利範囲に属しないと判断したものである。

四、しかしながら、右審決は次の理由によつて違法であつて、取り消されるべきものである。

1  元来、登録請求の範囲に記載された各事項の中でも、当該実用新案の重要構成部をなすものと附加的構成部をなすものとがある。(イ)号図面および説明書に記載されているものが登録実用新案の権利範囲に属するか否かを判定する場合、たとえ附加的構成部において若干の差異があるとしても、説明書の記載殊に作用効果の記載をも参照して重要構成部と認められる点において一致するかぎり、(イ)号図面記載のものは当該実用新案の権利範囲に属するものと認めるのが、従来の取扱例である。

2  ところで、本件登録実用新案の目的は、説明書に明示されてはいないが、説明書の全体より判断して、「閃光灯装置を不使用時閉鎖した一つのブロツクとなし、携帯に便ならしめる」ことであるのは明らかである。そして、本件登録実用新案の登録請求の範囲の記載は、大別して次の二つの事項すなわち

(I) ケーシング1が、中空室1aの両側に、電池その他を収容する室2と3とを有すること

(II) ケーシング1の上部にソケツト5を有する灯支持体4を枢軸6によつて枢着し、折畳み式反射器8を有する支持体7を上記の灯支持体に堅固に取りつけたこと

に大別することができる。そして、(I)の構造による作用効果は、格納時に閃光灯9をソケツト5につけたままで反射器8もろとも収容し得ることであり、(II)の構造による作用効果は、電池その他を格納するケーシング1に対し枢動可能に取りつけられた反射器支持体7と灯支持体4とを不使用時に回動させて、該ケーシング1をカバー状に閉鎖することができ、その結果、閉鎖位置においては、装置全体が閉鎖された一つのブロツクを形成し、しかも邪魔になる突起物のようなものがないから、携行に至便である、ということである。右の二つの作用効果を検討するに、本件登録実用新案の前記目的を達成するについては、(II)の構造による作用効果の方が本質的なものであり、(I)のそれは、(II)の構造による作用効果をより一そう高めるため補助的な役割しか果たしていないのであるから、附加的の作用効果にすぎないことが明らかである。すなわち、本件登録実用新案の登録請求の範囲に記載されている事項のうち、(II)が重要構成部をなし、(I)は附加的構成部をなすということができる。

3  (イ)号図面および説明書記載の装置(以下(イ)号装置と略称する。)は、その灯支持体4・支持体7および折畳み式反射器8が、ともにケーシング1に、枢軸6により回動が可能なように接着されている点において、本件登録実用新案の(II)の構成と一致しており、本件登録実用新案の説明書における前記(II)の構造による作用効果の記載は、そのまま(イ)号装置の前記構造にもあてはまるものである。

4  もつとも本件登録実用新案においては、ソケツトと反射器とはそれぞれ別個の支持体4と7に取りつけてあり、その取付位置は中心軸が互いに直交するようになつているのに対し、(イ)号装置では、ソケツトが展開した反射器8の中心に位置するように、同心的に取りつけられているという構造上の差異はあるけれども、これは本質的な差異ではなく、単なる設計上の微差にすぎない。何となれば、右は、折畳み式反射器が、灯支持体に固定した支持体7を介して灯支持体に固定配設されているか、直接灯支持体に固定配設されているかの相違であつて、反射器と灯支持体とが互いに固定配設の関係にあるという点では変わりがないからである。また、本件登録実用新案の登録請求の範囲の記載ではソケツトと反射器との関係は規定していないから、右の点は権利範囲に属するか否かの問題とは無関係であるともいえる。さらに重要なことは、右の構造上の差異の存することは、前記(II)の構造による作用効果に何物をも附加せず、また何物をも減殺しないということである。閃光灯が、反射器の前面にあつて、反射器に当たる光が反射して交叉する範囲内にあるかどうかが重要なのであつて、その場合、閃光灯が反射器に対し同心関係の位置にあるか、それとも互いに軸が直交する位置にあるかは、前記の作用効果に大して影響がないのである。なお、附言すれば、本件登録実用新案では、ソケツトを、反射器に対し輻射方向に、閃光灯の大きさに対応して簡単に調節できるので、この点不利はない。

5  (イ)号装置のケーシングは、電池を収容できるようにした点で、本件登録実用新案の(I)の構造と一致しているが、(イ)号装置では電池収容室が一つ設けてあり、本件実用新案のものにおいて中空室の両側に電池および蓄電器等を収容する室2と3を設けているのと異なつている。しかし、この点は、前に述べたように、附加的な構成部に関する差異に止まり、本質的な差異ということはできない。なお、(イ)号装置では、ソケツトを保持するブロツクの裏に蓄電器を収容するようにしているが、これは当事者が容易に実施し得るもので、設計上の変更にすぎない。

6  以上要するに、本件登録実用新案と(イ)号装置とは、前記(I)の附加的構成部に関しては差異があるけれども、前記(II)の重要構成部に関しては一致しているのであり、したがつて、(イ)号装置は本件登録実用新案の権利範囲に属するものというべきであり、これを認めなかつた本件審決は判断を誤つたものといわねばならない。

第三、被告の答弁

被告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、原告主張の請求原因に対して次のように述べた。

一、原告主張の一・二・三の事実はこれを認める。

二、同四の主張については、以下に述べるようにこれを争う。

1  原告の主張は、本件登録実用新案の登録請求の範囲に一連の文章として記載せられ不可分の関係にある事項を原告に都合のよいように(I)(II)の二つの構成に分割したうえ、これに軽重の評価をし、その評価に基いて、(イ)号装置との間に重要構成部の点で一致がみられるとするもので、全く、我田引水の不当な主張というべきである。

2  そもそも、携帯用写真閃光器において、折畳み式反射器を具えた閃光器母体に蓋をちようつがいづけにし、閉蓋された不使用状態では母体から外部に突起物を露呈させないようにして携行に便ならしめるという設計のものは、本件登録実用新案の出願前すでに公知に属しており、したがつて本件登録実用新案も右の点まで含めた広汎な内容を権利の対象としようとするものでないことは、その説明書全文の記載からみても明らかである。すなわち、このような蓋を開閉する形式の閃光器にいかなる形態を与えて実用的効果を発揮させるかが問題なのであつて、多くの当事者が設計を行なうにあたり、携帯用閃光器としての実用的効果のうちどの点に重点を置くかによつて、具体化された構造に相違をきたすのである。この点につき、本件登録実用新案の考案者は、箱形をなす閃光器母体内部の両側に電池その他を収容する室2と3とを片寄せて設け、その間に中空室1aを形成することによつて、蓋を閉鎖した場合ソケツトに装着された閃光球が蓋とともに回動して前記空室1a内に格納せられることを実用的効果の一つとして取りあげ、母体に前記の構造をもたせたものであることは、その説明書中の記載および登録請求の範囲の記載に徴して明らかである。

3  ところが、この設計方針には、現実の問題として次のような不都合を必ず伴うのである。すなわち、閃光球は発光量により大小さまざまのものがあり、小集会撮影等にしばしば使用せられる球種でも直径が三八ミリ内外もあるので、このような球を中間の空室1a内に格納する設計方針をとるときは、その両側の電池その他を収容すべき室2および3を併せて母体の幅は膨大なものになり、小型で携行に便利という実用上の効果から甚しく背馳するものとなる。ことに、閃光球は、その大きさが異なるにつれて、ソケツトにはめる口金から球の中心までの高さが異なるので、本件登録実用新案の閃光器のように閃光球がその高さの方向を反射器の半径方向に向けて取りつけられざるを得ないものでは、発光光源の中心と反射器の中心とが一致しないため、照明効率が著しく劣り、閃光器としての本来の用途に致命的欠陥をもたらすこととなるのであつて、この欠陥は原告主張のように簡単に調節できるものではない。

4  なお、原告は反射器に対するソケツトの軸線方向の如何は登録請求の範囲において限定していないと主張するけれども、ソケツトの軸線方向を折畳み反射器の連片の枢軸方向に一致させるときは、球をソケツトに装着したまゝ蓋で母体を閉鎖することは不可能であるから、ソケツトの取りつけの向きについて登録請求の範囲中に具体的な文章上の制限がなくても、本文中の効果の記載を勘案すれば、登録請求の範囲の冒頭に「図面に示すように」とあるのは、ソケツトの軸線が蓋のちようつがい軸線に垂直であることを言外に示すものであるとともに、ソケツトおよび反射器を取りつけた蓋部の構造と、中間に閃光球格納用の中空室1aを隔ててその両側に電池その他を収容すべき室2および3を設けた母体部の構造とが不可分の関連をもつものであることを明示しているというべきである。

5  以上に対し、(イ)号図面表示の閃光器の設計方針は次のとおりである。すなわち、閃光球は、発光量の多寡に応じて大小さまざまのものがあるが、照明効果を良くするためには、すべて球の中心が折畳み反射器の中心に置かれなければならない。一方、現今の市販閃光球はいわゆるスワンベースの口金を具えるものであつて、その口金をソケツトにさし込むだけで球はソケツト内に装着せられ、発光後の廃球は閃光器に設けられた廃球除去装置(エジエクター)のボタンを押すだけでソケツトからばねではじき出されるようにするのが慣用技術であつて、球の装着・つけ替えはほとんど一瞬の間に行なわれ得るものであり、かつ閃光撮影はただ一回のみで事足る場合はまれで、球を取り替えて連続撮影を行なう方が普通であるから、球は別に携行することにし、閃光器そのものを小型化することの方が重要である。そのためには、閉蓋時に球をソケツトに装着したまま母体内に格納するための空間をとることはほとんど意味がない。また、電池とちがつて取換を必要としない蓄電器のような電器部品は、灯支持体の裏に格納することにし、母体の箱内はなるべく有効に利用するため、電池の収容室は母体内の上部に幅一杯に設け、とかく散逸しやすい閃光器とカメラとの接続用コードを母体内の下部に十分ゆとりをとつて収容することとする。また、折畳み式反射器はソケツトと共軸的に設け、展開した場合の笠の面積を大きくして反射能率をあげるために、反射器の枢軸部を蓋のちようつがい軸にできるだけ接近させる。このような設計方針のもとに考案せられたのが(イ)号図面記載の閃光器なのである。

6  以上のように、本件登録実用新案の閃光器と(イ)号図面のものとは設計上の重視点が異なつており、したがつて、それぞれの意図のもとに具現せられた構造も相違しているのである。要するに、原告の有する登録実用新案の閃光器は、形態の膨大化と照明能率の低劣化を犠牲にしても、最初の一発のための閃光球をソケツトにはめたまま蓋をして携行し得るようしようという設計意図のもとに考案せられたものであり、このような考案を対象とする実用新案権の中に、前記のように全部別個の立場で異なる構造に設計せられた(イ)号図面の閃光器が包含されるとする原告の主張は失当といわねばならない。

第四被告の答弁に対する原告の主張

原告代理人は、前記被告の主張に対し次のように反論した。

一、原告の主張する二の2の公知に関する点はこれを争う。

二、本件登録実用新案の閃光灯装置においては、中空室1aがどの位の広さをもつかは重要なことではない。閃光灯装置の母体の大きさが右中空室1aの大きさに依存することは当然であり、したがつて、もし母体を特に小さくしようという場合に、それがため閃光灯を収納することを止めて中空室を小さくし、単に所要電気部品の収納のみに役立てるというようなことは、なんら考案力を要せずして当業者が容易に実施し得ることである。

三、本件登録実用新案の登録請求の範囲には、前にも述べたように、折畳み式反射器とソケツトとがケーシングに回動可能に装着した共通の支持体に対し固定配設の関係にあることを規定しているだけで、それらが該支持体に対しいかなる配設態様にあるかは別段規定していないのである。したがつて、被告がこの配設態様の相違による作用効果について述べているところは、いずれも論点を誤つているものというべきである。

第五、証拠関係

原告代理人は、甲第一号証・第二号証の一・二・三・第三号証を提出し、検乙第一号証に関する被告の主張事実を認め、被告代理人は、検乙第一号証を提出し、右は(イ)号図面記載のものに相当する実物であると述べ、甲号各証の成立を認めた。

理由

一、原告主張の一・二・三の事実は当事者間に争いがない。

二、右争いのない事実に成立に争いのない甲第一号証・同第二号証の一・二の記載および検乙第一号証の検証の結果その他弁論の全趣旨を合わせ考えれば、本件登録実用新案第四六八、六八六号は、原告の出願に基いて登録せられたもので、その考案要旨は、登録請求の範囲の記載によれば、「図面〔別紙第一図〕に示すように空室1aの両側に電池その他を収容する室2と3とを有するケーシング1の上部にソケツト5を有する灯支持体4を枢軸6によつて枢着し、折畳み式反射器8を有する支持体7を上記の灯支持体に堅固に取りつけた閃光灯装置の構造」にあるものとせられ、これに対し、被告の実施する(イ)号図面およびその説明書に示す閃光灯装置は、別紙第二図表示のように、電池その他を収容する室2と3とを有するケーシング1の上部に、ソケツト5を有する灯支持体4を枢軸6によつて枢着し、折畳み式反射器8とこれを支持する支持体7と前記灯支持体4とを一体となるように堅固に取りつけ、不使用時に回動させて該ケーシング1をカバー状に閉鎖するようにしたもので、室2と3とは上下に分かれ、上の室2には電池等を収容し、下の室3には導線等を収容するようになつており、なお、ソケツトは反射器8の中心に位置するように同心的に取りつけられ、閉鎖状態においては、ソケツト5の部分が前記室2の上方をおおうようになつており、ケーシング1の幅は反射器構成用の鱗片を収容するに必要な最小限度にまで狭くなつているものであること

が認められる。

三、そこで、(イ)号装置が本件登録実用新案における考案構成上必須の要件を具備するかどうかを検討するため、まず、本件登録実用新案の登録請求の範囲に記載の事項を(I)の附加的構成部と(II)の重要構成部に分かち得るとする原告の主張について考察する。前記甲第一号証によれば、本件登録実用新案の説明書中その装置を説明した部分において、ソケツト5が灯支持体4に、反射器8がその支持体7にそれぞれ取りつけられ、そして右支持体7が灯支持体4に、灯支持体4が枢軸6によりケーシング1にそれぞれ結合されていて、反射器8の扇形子8aを重ね合わせた後灯支持体4を使用時の展開位置から一八〇度回動させれば、反射器8の支持体7がケーシング1の前面を閉鎖するようになつていることを明らかにするとともに、ケーシング1内の中空室1aを充分大きく構成し閃光灯9をも収容しうるようにしてあることを説明し、また作用効果に関する部分において、不使用時には前記の操作によりケーシング1をカバー状に閉鎖し携行に至便な一つのブロツクとすることができることを挙げるとともに、電池および蓄電器等が収容されている上記のケーシング1の室2と3との間に中空室1aが設けられてあるから、格納時には閃光灯9をソケツト5につけたままで反射器もろとも収容することができるという作用効果を挙げていること、そして作用効果として挙げているところは右の二点だけであることが認められるのであつて、これによつてみれば、前記作用効果のうち後者も、前者とともに本件登録実用新案の考案において意図された重要なものであると認めるべきである。したがつて、甲第一号証の登録請求の範囲の記載中には、単に中空室1aとあつて、その大きさについては別段明示してはいないが、前記説明書の記載および図面の表示と対照すれば、右中空室1aは、ソケツトにつけたままの閃光灯を収容するに足る大きさを具えた空室であることを当然予定しているものであり、同時にまた、灯支持体4が反射器支持体7とともに使用時の位置より一八〇度回動することにより、ソケツトにつけた閃光灯がそのまま前記中空室1aに収容されるようにソケツトの取りつけがなされていることをも予定しているものと解すべきである。すなわち、本件登録実用新案にかかる閃光灯装置の構造のうち、ケーシング1を横に三室に分割し、両側の室2と3との間に前記のような中空室1aを設けた構造は、前記のようなソケツト5を有する灯支持体4を枢軸6によりケーシング1の上部に結合した構造と相まつて、ケーシング1aの閉鎖に際し、閃光灯をソケツトにつけたままでケーシング1aの中に収容し得るという前記の重要な作用効果を実現するため不可欠の構造なのであつて、原告主張の(I)の構造は、原告も自ら重要構成部であることを認めている(II)の構造とともに、本件登録実用新案における考案の構成上必須の要件をなしているものといわねばならない。(I)の構造は単なる附加的構成部にすぎないとする原告の主張はとうてい是認できず、なお、原告は、前記中空室1aを縮小して閃光灯を収容し得ない程度のものとすることも当業者が必要に応じ格別考案力を要せずして実施し得る旨主張するけれども、中空室を全然設けずあるいは右の程度にまで縮小した装置は、もはや本件登録実用新案の考案構成上必須の要件を欠如するものと解すべきであるから、右の主張も失当といわねばならない。

四、ところで、(イ)号装置にあつては、反射器、その支持体および灯支持体等を一つの枢軸によつて同時に回動できるように堅固に取りつけ、不使用時にこれらを回動させてケーシングをカバー状に閉鎖するようにした閃光装置であるという点において、本件登録実用新案におけるものと一致した構造を有するものということができるけれども、ケーシングの具体的構造およびソケツトと反射器の取付位置の関係において本件登録実用新案のものと著しく相違していることは前記認定事実よりして明らかである。すなわち、(イ)号装置におけるケーシング1は、電池等を収容する室2と導線等を収容する室3とに上下に二分されていて、本件登録実用新案におけるような中空室を具えておらず、したがつて反射器支持体等を回動させてケーシング1を閉鎖するに際し、ソケツトに閃光灯をつけたままこれをケーシング中に収容することは不可能な構造になつているわけである。しかも、前認定のようにソケツト5も反射器8の中心にこれと同心的に取りつけられており、このことからしても右のような作用効果は全く考慮外にあることは明らかである。してみれば、(イ)号装置は、ケーシング1が前記のような中空室を有しこれに閃光灯をソケツトにつけたまま収容し得るようにした構造を具えていないという点において、本件登録実用新案の考案構成上必須の要件を欠いているものというべきである。そして、前認定のような(イ)号装置の構造からみれば、同装置は、閃光灯をケーシング内に収容することを考慮外とすることによりケーシングの横幅の縮小をはかるとともに、ソケツトの取付け位置を前記のようにすることによつて、閃光灯の大小にかかわらずそれが反射器の中心に位置するようにし、照明効果を増大せしめようという、本件登録実用新案とは別個の作用効果を主要なねらいとして、前記のように異なる構造のものに考案設計せられたものと推認できるのである。

五、以上の次第で、要するに(イ)号装置は本件登録実用新案における考案構成上の必須要件を欠くものであるから、本件登録実用新案と類似の域を脱しており、その権利範囲に属しないものといわねばならない。それゆえ、これと同趣旨の見解のもとに原告の権利範囲確認審判の請求を排斥した本件審決にはなんらの違法もなく、同審決の取消を求める原告の本訴請求はその理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を上告期間の附加につき同法第一五八条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原増司 山下朝一 多田貞治)

第一図<省略>

第二図<省略>

(イ)号説明書

電池その他を収容する室2と3とを有するケーシング1に対し、該格納ケーシングの上部にソケツト5を有する燈支持体4を枢軸6によつて枢着し、折りたたみ式反射器8とこれを支持する支持体7と上記の燈支持体4とを一体となるように堅固に取付け、不使用時に廻動させ該ケーシング1をカバー状に閉鎖するようにしたフラツシユガンに係るもので図面について説明すれば、1はケーシングでその中には電池および蓄電器抵抗等を収容するための室2と導線等を収容するための室3とが設けてあり、上記ケーシング1の上部にはソケツト5を有する燈支持体4が枢軸6によりケーシング1に結合されている。8は扇状に折りたたみうるようにした反射器であり、7はその支持体であり該反射器8は支持体7と上記の燈支持体4とにより一体となるごとく堅固に結合されている。したがつて折りたたみ式の反射器8の扇形8aを把み8bを使用して重ね合せた後に反射器8を180°廻動させるときは反射器8の支持体7(枢軸6を中心として燈支持体4とともに)がケーシング1の前面を閉鎖する。

格納位置に正しく保持するためにはケーシング1に設けられた凹み13内に嵌りうるようにした係脱金具12を支持体7に設けて装置全体が閉鎖された一つのブロツクを形成し、携行にきわめて至便のごとくしたフラツシユガンである。

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